日頃見慣れている植物との異国での出会いは嬉しい。ヤマブキやアオキは、どこにでもある日本の植物だが、ヨーロッパでもごく普通の園芸植物になっている。ともに日本ではあまり見向きもされない植物だが、ヨーロッパでは愛好者も多い。春先きのよく晴れた日は、晴れていることだけで心が浮き立つものだ。それというのもいつも曇り勝ちで、時雨れることも多いからだ。そんな晴天にヤマブキの花はとても映える。レンギョウの黄金色もそうだが、ヤマブキの方が一層清楚感が漂う。日本でみるヤマブキとも色合いが少し違う感じがする。
寒さが日本よりもきびしいスイスでは常緑で育つ低木は少ない。アオキはそのひとつでしかも深紅の実が美しい。アオキの果実に寄生する昆虫がいるため、日本ではアオキの果実は整形にならず歪んだかたちをしていることが多い。この昆虫はヨーロッパまでは伝わらなかったか、育たなかったのだろう。ヨーロッパのアオキは、ラクビー・ボールに似た整ったかたちをして、しかも色も澄んでおり人目を引く。
氷河時代にほとんどの植物が死滅してしまったヨーロッパはもともと野生植物も少ない。園芸に利用できる植物も限られていた。大航海時代に熱帯を中心のたくさんの植物がもたらされたが、その多くは温室が必要で戸外では育たない。日本は氷河時代を生き延びた植物が多い。しかもヨーロッパと同じ温帯の国である。日本の植物の多くは戸外でも育つ。ここに目をつけたのが有名なシーボルトだ。彼は日本の植物でヨーロッパの庭園を変えようと考え、たくさんの植物を日本から持ち帰り、会社をつくり今日のカタログ販売によってヨーロッパ中に売り広めた。いまではどこにいってもある、ギボウシやアゼビなども、アオキやヤマブキと同じようにシーボルト以来の植物なのである。
ところでアオキには雄株と雌株があり、園芸で好まれるのは赤い実がなる雌株の方だ。ところがシーボルトが導入に成功したアオキはどういう訳か雄株ばかりだった。アオキは日本特産の植物である。日本ではどこにでも普通とはいっても鎖国中では簡単には雌株は入手できないでいた。幕末、鎖国が解かれるというニュースが伝わるや否やイギリスの王立キュー植物園や園芸業者はただちに日本に採集人を派遣した。いまでいうプラント・ハンターたちが求めたひとつがアオキの雌株であったのは無論である。
日本生まれで国際的な園芸植物へと発展した植物はツバキ、サザンカ、アジサイ(ハイドランジェア)、ユリ、ツツジなど十指に余る。アオキやヤマブキを眺めながら、園芸植物の宝庫、日本の野生植物の現状を思い起こしたものである。もはや3種に1種が絶滅に瀕している、という現状をご存知だろうか。
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